わたしの転機

エマです。

今週のお題は「わたしの転機」だそうですね。人生には沢山の転機や分岐点がありますが、それが吉と出るかは分からないもの。私は石橋を叩いてから渡るタイプです。然し臆病者で卑怯者の私は、石橋を叩いた後、更に誰かを籠絡して先に渡らせて、身の安全を確認してから渡るという、念には念を入れた臆病者です。そんな私にも転機がやってきました。

私が大学を卒業する前に就職超氷河期が始まりました。社会経験のない学生は、新卒でないと就職機会の少ない日本。その割に就活はあまり気が進まず、2社しか試験を受けませんでした。一応国家公務員試験を受け、勉強しなかった上、不景気の折、倍率が高くて見事玉砕。

就活に身が入らなかった理由は、兎に角臆病で、社会に出るのが怖かったから。世間巷には会社は厳しく怖い上司がいる、お局もいる、簡単に有給は取れない、鬱に追い込まれる人も沢山いる、そんな話が多くあります。こうした話に、ビビりんぼの私には、就職して社会の荒波に揉まれる自信が全くありませんでした。

大不況の最中の大学3年生の時に受講したドイツ語文献の講義は何故か聴講生が私1人。政治学の教授が教授室で、初心者の私にマンツーマンでドイツ語を教えて下さいました。ドイツ語の美しさ楽しさを知り、この歳になって初めて勉強の習慣をつける事が出来ました。それからはドイツ語の楽しさに芽生え、大してしなかった就活に終止符を打ち、ドイツ語の勉強へ打ち込みました。就職に難のある時期だったのもあるのか、大学卒業後就職せずに暫くドイツ語を勉強したいという私に両親は反対しませんでした。それからの私は受験勉強すらしなかったのに、猛烈にドイツ語の勉強へ邁進したのです。

バイト代は全て、私にはとても高額なドイツ語の授業料へと消えて行きました。世界でも厳しいと言われるゲーテ・インスティチュート・東京(以下・ゲーテ)のコースを幾つも取って通いました。通勤ラッシュの電車に父と乗って、朝の7:30からゲーテの授業に出た後、帰りの電車内で宿題を済ませてバイト。バイトの休憩時間には復習。夜10時過ぎに帰宅して夕食・お風呂の後に予習・復習、宿題の残りをし、大好きなドイツ語の歌を歌ったりと、かなりの時間をドイツ語に費やしました。普通の学生さんには当たり前の勉強量かもしれない。然し万年赤点、部活バカだった私が一心不乱に勉強していたので、両親には就活する様に諭される事はありませんでした。私自身、ドイツ語の勉強が、波に乗れているという手ごたえも感じられるようになっていたし、両親にも2年ほどで良いからドイツ語を勉強したい、家に置いてくれと頼みました。

それから2度のドイツでの語学学校のコースを終え、将来の身の置き場を考え出した頃。ドイツの大学は無料だけれども生活費を工面出来ないので語学留学は諦めていました。そんな頃、偶然にもゲーテ掲示板にオペア募集の貼り紙が。これが私の人生を決定的に変える転機となったのでした。

オペア募集をしていたのは、奥さんが日本人の国際結婚のご家庭。先方の日本帰省に合わせてオペア募集と面接をされていました。お子さんに日本語に多く触れさせる為、オペアを雇う国際結婚のご家庭は多いです。面接をして頂いて、世間知らずの箸にも棒にもかからない小娘を採用して下さいました。さぁ大変なのは両親の説得。明治時代生まれの親に育てられた両親。海外旅行はおろかインターネットの事も知らない世代。2度ドイツの語学学校に行かせたとはいえ、娘を見知らぬ外国へ出すのには正直躊躇いがあったようです。猛反対に合わずに説得出来たのは、行く先が日本人家庭であったのが決め手でした。然しこうでもしないとドイツへ行ける可能性のない私は、期限のあるオペア査証がある為、業務満了後に帰国し、就職なり結婚なり(お見合いの話もあったので)将来を決めると約束して渡独。

そうして日本を飛び出した私。オペア業務満了後、幸運にも現地で良い人々に出会い、運にも恵まれてドイツで職業訓練の場を得る事が出来、そのまま居着いてしまいました。ドイツは外国人にもフェアな国。人と違う事を個性として認め、受け入れてくれる国。根無し草のような、自分に自信のない私にとって楽園のような場所。人と同じでなくても良い、出る杭は打たれない。初めて人間として扱われた気がしました。私にとって良いところも悪いところもあるドイツ、運命の国には違いありません。あの時ゲーテ掲示板の前を通った時が、まさに、わたしの転機だったのでした。

オペアとして採用してくれた奥さん、ドイツ語を教えて下さった教授、心配しながらも口を出さずに見守ってくれた両親、大学の費用を工面してくれた姉、ドイツで知り合った人々、沢山の「有難う」の積み重なりのお陰で今の私がいる。そして何よりやりたい事を、才能ではなく努力で成し遂げた当時の若かりし頃の私を労ってあげたい。

 

長文、最後までお付き合い頂き有難うございました。